モラハラ

モラルハラスメントとは

「モラルハラスメント」とは、言葉や態度、身振りや文書などによって、相手の人格や尊厳を傷つけたり、肉体的・精神的に傷を負わせる行為のことをいいます。モラルハラスメントは、夫婦間、会社、学校、地域など人間関係のある場面で広く問題となります。

 

今では聞きなじみのある言葉ですが、その語源は1998年にフランスのマリー=フランス・イルゴイエンヌ博士が出版した『モラル・ハラスメント(Le Harcèlement moral – la violence perverse au quotidien』によるそうです。

夫婦間のモラルハラスメントとは

ここでは、夫婦間での問題を取り上げます。

夫婦間は、外部の目の届かない「密室のやり取り」が行われるため、そのモラルハラスメントについても特殊性があります。
それは、夫婦間の問題として軽くみられるという点です。

例えば、夫が妻を無視したり、怒鳴ったり、怒ったりしているとします。もちろん、その対応には原因があることもありますが(しばしば些細な理由であることもありますが・・・)、
それを他の家族や友人に相談しても、互いに話し合ったらどうか、気にしすぎなのではないか、と軽く流されることもあります。

痣や骨折など、痕が残る肉体的なDVと違って、軽視されることが多いと言えます(※)

 

しかし、被害を受けている方からすると、その被害というのはとても深刻です。夫からは毎日毎日些細なことを理由に責め続けられます。夫婦関係は、場合によっては死別するまで続くわけです。そして、言動1つ1つは、確実に被害者の性格や自尊心、自信を損なわせるものであり、肉体的な暴力に匹敵するほど、被害者を追い詰めていきます。

そうすると、この生活に終わりはないのかと絶望すら覚えます。さらには、助けを求めてワラを掴む思いで相談しても、場合によっては「そんなこと」と思いのほか真剣に取り合ってもらえないことや、誰も家庭内の様子を知ることはないので「○○さんは良い夫/妻なんだから、そういうことはしないのではないか」と共感してもらえないこともあります。

ここにモラルハラスメントの難しさがあるといえます。

※夫によるモラハラの例を挙げましたが、妻から夫に対する行為であってもモラハラに該当します。

 

モラルハラスメントの法律上の位置づけ

モラルハラスメントは、法律上、①慰謝料発生事由や②離婚事由になり得ます。

とはいえ、モラルハラスメントを理由に慰謝料請求をすることは、それなりに困難が伴います。物的な証拠が残らないことがほとんどだからです。なので、裁判となり、モラルハラスメントを受けたことを理由に慰謝料請求をしても、相手方が事実を認めない場合には立証することが難しいのです。

物的な証拠、つまり「このような行為をされた」というものは、言動を記録した動画や録音、メールやLINEでのやり取りであればそのスクリーンショット、刑事事件にまで発展したような場合にはその捜査資料などです。

 

継続してモラルハラスメントを受けた場合、そのような人と一緒に生活するのは困難といえます。そのため、夫婦間でモラルハラスメントを受けた場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるとして離婚の可否が問題となります。
モラハラをするような人の場合、自分がモラハラの行為者であるという自覚がありません。悪いのは自分を怒らせる相手にある、自分は仕方なく怒っているだけだと考えているからです。

 

そのため、簡単に離婚に応じようとしないケースが多くあります。仮に、離婚に応じるとしても、飲めないような条件を提示し、事実上離婚を拒否する態度を示すこともあります。一旦は離婚に応じると言いつつも、実際には離婚までにかなりの時間をかけようとすることがあります。

 

話し合いや調停の中で離婚に応じないとなると、裁判によって離婚を目指していくことになります。裁判上、「離婚原因」がなければ離婚はできません。モラハラをするような人の場合、モラハラの認識がないし、言動自体を否定しますから、裁判で「離婚原因がある」ということを立証することは簡単とはいえません。

また、モラルハラスメントは性格の不一致の延長上に生じるものといえますが、性格の不一致があるだけでは「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当せず、離婚原因にはならないためです。

 

そのため、相手方に対してモラルハラスメントを理由に慰謝料や離婚を求める場合には、可能な限り証拠を残しておくことが重要といえるでしょう。
日常的にモラルハラスメントを感じるような場合には、夫婦の会話や家庭内での相手の様子を録音したり、動画写真に残したり、相手方からのメール手紙LINEを残しておいたりすることが有用でしょう。時には、友人や家族に対して相談したときのLINEなども間接的な証拠となり得ます。

 

また、相手方から受けた言動を日記などこまめにメモに残しておくことも重要です。その際にはいつ・どこで・だれから・どんな理由で・何をされて・どうなったというストーリーのように記載すると後から見返した時に思い出しやすくなります(例えば、初詣に出かける日の朝、自宅の玄関で、夫から、子供の支度ができていないという理由で「本当にどんくさいな、子供1人の身支度くらい間に合うようにできないのか。お前のせいで神社の列に並ぶ時間が増えるやろうが、それくらい自分の頭で考えて分かっとけ。」と言われた、等)。

 

相手からのモラハラの記録を残し続けることは非常につらい側面もありますが、やはり重要な証拠になると考えれば、消さずに残しておくことをおすすめします。

最後に

モラルハラスメントを受けた場合には、特段支障がなければ、別居することを1つの選択肢として考えるのがよいでしょう。別居期間が長期化することで、結果として、夫婦関係破綻の1つの要素と認められることとなります。

 

また、別居するに際して婚姻費用の請求をすることで、ある程度の生活水準を保つことも可能です。別居中、単身又は子連れでアパートなどを借りる場合だけではなく、実家に帰る場合であっても婚姻費用を請求することは可能です。
さらに、モラハラの態様の強さ(例えば、「殺す」など生命や身体に危害を与える脅迫をするようなもの)によっては、保護命令の申立てを検討する必要もあります。

 

あなたや周囲の人たちのかけがえない人生を守るために、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

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