ささいなことで妻に対して怒る夫
1 はじめに
今回も実際の離婚事件で、モラルハラスメントが問題となったケースを紹介いたします。ご紹介するケースは「ささいなことに対して怒る夫」について、離婚慰謝料が認められたというものです(東京地方裁判所平成17年5月23日判決)。
2 「ささいなことで怒る夫」に対する裁判所の判断は・・・?
妻の主張によれば、夫は結婚後よりささいなことで激怒し、目つきが変わり、ものに当たり、壁に穴を開けるなどの行為に及んでいました。また、夫は「髪の毛が抜ける」と言い出し、自分の体を痣ができるほど自分で殴るという行動をとるなど異常と評される行為に及ぶなどしました。夫を心配する妻に対しても、「お前がいるからいらいらする」と当たり散らしたり、頭髪を気にして引きこもりがちになりました。さらに、子供が産まれた後も「髪の毛が大事で、子供は生まれなくてもよかった」、「出ていけ」、「お前と結婚したのは失敗だった」と述べることもあったようです。
裁判所は妻の主張を踏まえて、以下の事実を認定しました。
①夫が婚姻後、脱毛を気にして髪が抜けるとすぐいらいらして妻に当たり散らしたこと
②外出にも消極的になるなどし、子供が産まれた後も親子で外出することがままならないことで、妻が不満を募らせたこと
③夫は、妻の行動や言動に対して我慢できずに怒り出すことがあったこと
④夫が激高して、妻に対して、「結婚は失敗で、子供は生まれなかった方がよかった」という旨の発言をしばしばしていたこと
その上で、婚姻関係が破綻した原因は「夫の性格によるところが大きい」として、離婚慰謝料として150万円の支払いを認めました。
なお、離婚慰謝料の金額は、妻側が自宅を空けることが多く、時折夫を馬鹿にする発言をしていたことから、夫に対する妻の言動に問題がなかったわけではないという事情も考慮されています。
3 最後に
この裁判例のように、モラルハラスメント行為と呼ばれるもの行為は家庭内で行われることもあり、裁判所を含めた第三者から「見えにくい」ものです。そのため、「いつ、どのような状況で、誰が、どのような言動をとったのか」を明らかにする証拠を多く提出することが重要です。配偶者とやり取りをしたメッセージや配偶者との会話の録音、親族に相談したメッセージの履歴だけでなく、ご自身の日記やスマホのメモ機能などに記録を残しておくことが有用である場合もあります。
「これはモラハラではないのか?」と思い当たるようであれば、なるべく早期に証拠を確保していくことが重要です。
「実際にどのようなことから始めていけばいいのか?」と思われる方も少なくありません。お悩みのことがあれば、まずは弁護士への相談をご検討ください。